源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐

上:『源氏物語』の「胡蝶」巻で、紫の上は、秋好む中宮の「季の御読経」の催事に際して供華を行ったが、その時の使者として遣わされたのが、「迦陵頻」と「胡蝶」を舞う童子たちであった。庭の舞を見る画面奥の秋好む中宮と光源氏、春爛漫の六条院、西南の町である。

源氏物語小屏風絵-胡蝶-
(個人蔵、江戸初期)

下:「龍頭鷁首を、唐のよそひに、ことことしうしつらひて、楫取の棹さす童べ、皆みづら結ひて、唐土だたせて、さる大きなる池のなかにさし出でたれば、まことの見知らぬ国に来たらむここちして」―『源氏物語』「胡蝶」巻より

源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐

通信部会


【活動概要】

通信部会のゼミナールは、東洋大学付属図書館所蔵『伊勢物語肖聞抄』を取り上げます。本書は、室町時代に活躍した連歌師飯尾宗祇の『伊勢物語』についての講義を、弟子の牡丹花肖柏が筆録したもので、文明9年(1477)に初稿本が成立しています。『伊勢物語』は、ありていに言えば、和歌がどのような経緯と事情とによって生まれたのかということを説明するものでもあるので、和歌をその文芸の根幹に据える連歌からすれば、きわめて重要な作品に他ならないのです。

おそらく『伊勢物語』ほどわが国の研究史において注釈書が多く生まれている作品は他に例がないでありましょう。この国の文学史がいかに和歌を中心とするものであったかを物語るものでもありますが、『伊勢物語肖聞抄』を紐解くことによって、『伊勢物語』享受史における室町時代のあり方というものを知ることが出来るでしょう。

我々は、日本の古典を能動的に知り、そして次代に受け渡していくという責務があります。通信部会は、新しい試みとしてのサイトを活用する部会活動です。会員の皆さまの積極的な参加をお願いいたします。

河地修


【通信部会課題・活動記録】


以下、院生会員の古田による活動の補足です。

 

【翻刻の考え方】

◆翻刻とその意義

翻刻とは、現在と異なる字形で書かれた文字を、現在通行する活字になおす(翻字する)作業のことです。古典文学で近世(江戸時代)以前の資料(古典籍)を扱う場合、筆で書かれた「写本」や、版木に彫られて印刷された「版本」のくずし字(異体字)を扱うことになります。明治時代以降も手書き原稿を扱う際に翻刻が行われることがありますが、古典文学文化分野で翻刻といった場合は、この近世以前の古い本のくずし字を、現代の活字になおす作業を指します。

現在では、こうした近世以前の本は、既に翻刻されて活字化されているものも少なくありません。文学部の学生が目にする注釈書の類も、異体字ではなく現代の活字で読めることが殆どだと思います。今回王朝文学文化研究会でとりあげる『伊勢物語肖聞抄』も、他の機関が所蔵している本はすでに翻刻されています。

しかし写本や版本には後人の補筆や誤りによる本ごとの差異(異同)も多く、一所蔵者の本だけが読めれば良いわけではありません。そもそも世の中には、未だ翻刻されていない資料がたくさんあります。自ら翻刻できるようになれば、リポートや論文などで扱える資料が増えることにつながります。また、大学で古典を学んだ証・教養ともなるので、ぜひくずし字の解読を行えるようになりましょう。

 

◆『肖聞抄』とは

今回取り扱う『肖聞抄』は中世に数多く作られた古典の注釈書の一つです。室町時代中期の連歌師である宗祇の『伊勢物語』講義を、肖柏が聞き書きしたものです。肖柏はやはり宗祇の講義を元として、『源氏物語』の注釈書『弄花抄』なども残しています。『源氏物語』を勉強している方は、馴染みのある方もいるのではないでしょうか。

『肖聞抄』は、大津有一氏の「牡丹花肖柏と伊勢物語肖聞抄」によって、それぞれ文明九年、文明一二年、延徳三年に書かれた三系統の本があることが知られています。この区別は『伊勢物語』七五段の注にあたる部分の末尾に、聞書がまとめられた年号が記載されていることによります。この区分によれば、東洋大学蔵本は六二丁裏に「今年文明十二庚子」とあるため、文明一二年本であることがわかります。

既に『伊勢物語古注釈大成』に翻刻されている『肖聞抄』は、それぞれ文明九年本、延徳三年本なので、東洋大学蔵本とは系統が異なることになります。細かい文言や注釈なども異なってくると思います。実際に翻刻を進めていく中で、本の性格なども明らかになってくるでしょう。

東洋大学大学院文学研究科国文学専攻 博士後期課程三年
東洋大学通信教育部ティーチング・アシスタント(T.A.)
古田正幸


通信部会指導:教授・河地、非常勤講師・大野 (アシスタント:院生会員 古田)