源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐

上:『源氏物語』の「胡蝶」巻で、紫の上は、秋好む中宮の「季の御読経」の催事に際して供華を行ったが、その時の使者として遣わされたのが、「迦陵頻」と「胡蝶」を舞う童子たちであった。庭の舞を見る画面奥の秋好む中宮と光源氏、春爛漫の六条院、西南の町である。

源氏物語小屏風絵-胡蝶-
(個人蔵、江戸初期)

下:「龍頭鷁首を、唐のよそひに、ことことしうしつらひて、楫取の棹さす童べ、皆みづら結ひて、唐土だたせて、さる大きなる池のなかにさし出でたれば、まことの見知らぬ国に来たらむここちして」―『源氏物語』「胡蝶」巻より

源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐
部会報告
平成22年6月5日 第21回 土曜部会

【報告】
  参加者(敬称略):河地・大野・野呂・下河・古田・大川・川畑・市川・田辺
  発表は「12~15番歌について」です。学部4年の田辺が担当しました。
  最も話題になったのは、12番歌です。 まず、「寛平の御時きさいの宮の歌合」についでですが、「寛平の御時」は宇多天皇の御世を指します。 続く「きさいの宮」は、注釈書によっては(後に宇多天皇の皇后となる)温子となっているものがありますが、現在では宇多天皇の在位中に后の位にいた班子女王とする説に落ち着いているとのことでした。 歌を詠ませる天皇の先駆けである宇多天皇は、歌合を公式行事にした天皇でもあり、この「寛平の御時きさいの宮の歌合」は公的に行われた歌合のかなり早い例であるようです。
初句の「谷風」は多くの本で「山風」となっています。 「谷風」よりも「山風」の方が用例が多い(と思われる)ことから考えて、「山風」となっていたのが「谷風」になった可能性があるのではないか、と先生方から御指摘がありました。 (この件に関しては、大野先生がお調べになって掲示板に書き込んで下さいました。是非そちらもご覧ください。)
  15番歌の通釈は、私は発表の際には「鶯も『わずらわしげ』に鳴くことよ」としていたのですが、先生方の「ニュアンスが違うのではないか」との御指摘を受け、ホームページ用のデータは「鶯も『物憂げ』に鳴くことよ」と修正してあります。 通釈を付ける前に歌の情景をきちんと理解することが必要だな、と感じました。
  河地先生が『古今集』の歌の配列において注目すべき点として仰っていたのは次の2点です。 1つ目は、前の句に詠み込まれたものがその後の句にも詠まれているといった「言葉の連なり」です。 部立になっている「春」を除き、12番歌には13番歌につづく「花」、13番歌には14番歌へつづく「鶯」、14番歌には15番歌の「音」につづく「声」、そして15番歌には16番歌の「野辺」につづく「山ざと」が詠まれているといった具合に、歌と歌が繋がっていく様子が伺えます。 2つ目は、「時の経過」です。 上記の「言葉の連なり」を形成する語を見ても、徐々に来る春を感じられるような配列であると言えるのではないでしょうか。 また、先生の「言語的遊戯」の要素についての御指摘も大変興味深かったです。
  初めての土曜部会での発表でした。 学部の4年生ですが、今まであまり和歌に触れてこなかったので、少しずつ勉強していきたいと思います。
  次回の土曜部会は6月19日で、16番歌からです。

学部4年 田辺ゆかり


※資料(アクセスキーを入力してください)
   『古今和歌集』12~15番歌(p25~p26)